新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
そんな会話が聞こえてきて、それと同時に私の涙腺は遂に堪えきれずに決壊してしまい、顔を上げられなくなってしまった。
耳を塞ぐことが出来ず、それを補うように瞼を強く閉じると涙が待ってましたとばかりに、一斉に溢れ出す。
きっと周りから見れば、高橋さんにふられたように見えるんだろう。
不釣り合いなのは、1番自分がよく分かっている。 
だけど……やはり間近でそんな会話を耳にして、嘲笑を浴びせられると心が痛い。
「あぁ……まるで俺が泣かしたみたいだな」
先ほど買ったプレゼントが入っている紙袋に何かがぶつかり、袋が潰れるような紙が擦れる鈍い音がした。
エッ……。
嘘……でしょう?
こんな人混みの中で、絶対に目立つに決まっている。
あろうことか、そんな場所で高橋さんが私を抱きしめた。
「俺が女をふったとしたら、こんなことはしない」
高橋さんが、ギュッと一瞬両腕に力を込めた。
早く、離れないと。
また何を言われるか、分からない。
「は、恥ずかしいですから、高橋さん。 もう、離して下さい。 お願いですから、高橋さん」
離れようと試みながら、高橋さんに言い続けた。
「女を泣かしたみたいな俺は、もっと格好悪い」
高橋さん……。
そうじゃない。 
高橋さんのせいじゃないのに。
「そのまま、よく聞けよ。 1度しか、言わないから」
「えっ?」
すると、高橋さんが私の左耳に顔を近づけた。
「どういった経緯で、一緒に居るのか。 その2人が似合っているとか、似合っていないとか。 釣り合う、釣り合わないとか。 誰が、その基準を決められる? 所詮、興味本位で無責任な思いつきと憶測で、さももっともらしく口に出して言っているだけのこと。 当人同士のことは、他人にとやかく決められるものじゃない。 その権利もなければ、言われる義務もない。 あくまで、お前のことは俺が決めたこと。 周りが何と言おうと、お前は何も気にしなくていい。 もし、気になることがあるんだとしたら、その時は俺に言え。 分かった?」
高橋さんは、優しく諭すように言ってくれた。
こんな風に言われて……嬉しい。
やっぱり誰が何と言おうと、高橋さんが大好きだ。
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