新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
もう、駄目かもしれない。 心臓が、破裂しそう。
遠くから見ても、あんなに格好いい人が自分の彼氏だなんて、到底信じがたい気がする。
この感覚は、出張に行く前よりも強く感じられることなんだけれど、NEW YORKから帰ってきてからの方が一段と格好良く見えてしまうのは、やはりLove is Blind だからだろうか。
席に近づくと、高橋さんが書類を上の棚から取った拍子に、お揃いの時計がチラッと見えてまたドキッとしてしまった。
大きさこそ違うが、同じ時計が今私の右手首にもある。
右手首にあるというより、右手首にいるという感じがするのは意識し過ぎだろうか。
「おはようございます」
「おはよう」
中原さんが手前に座っているので、先に挨拶をしてくれた。
そして自分の席に着いてから、もう1度するのがいつもの習慣。
その人、その人のきちんと目を見て挨拶をしなさいと、小さい頃からの両親の教えを守っている。
「おはようございます」
「おはよう」
はぁ……。
ちゃんと目を合わせて挨拶してくれる高橋さんに、毎日胸がキュンとなるのもいつもの習慣。
今朝は、昨日のまゆみのことがあるから、いつもにも増して胸がキュンとなってしまい、慌てて席に座って呼吸を整えた。
今からこんなことで、大丈夫だろうか。
しかし、そんな思いもまだ処理を仕切れていない出張中に溜まっていた書類の山を見て、慌てて仕事に取りかかった。
急ぎの書類の処理は終わっていたが、他の書類も今日は金曜日だし、しかも来週はもう月末、そうこうしているうちに仕事納めになってしまう。
何としても早く終わらせなければと思い、必死に書類と格闘した。

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