新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「あっ! いつの間に。 何処行くの? そこの2人」
「まずい。気づかれた。早く、行こう」
「えっ? ちょ、ちょっと、まだ仁さん。 私……待って下さい」
仁さんは靴を履くと、玄関横のシューズクロークに掛けてあった自分と私のコートを取って、まだ靴を履きかけていた私の腕を掴んで急いで外に出た。
エレベーターの前まで来ると手を離してくれたので、やっと靴が履けた。
「後は、貴博が何とかするだろう」
「えっ?」
何とかするだろうって、どういうこと?
「ハハッ……。 帰れば、分かるよ」
「はぁ……」
それだけ言うと、ちょうど来たエレベーターに仁さんが私を先に乗せてくれた。
帰れば、分かるよって……。
帰ったら、いったいどうなっているんだろう? 
不安な気持ちを抱きながら、仁さんと近くのコンビニに向かった。
コンビニでみんなの分の煙草も買った帰り道、他愛ない会話をしていたが、ふと仁さんが立ち止まった。
「どうかしましたか?」
「貴博を……たとえ、どんな時でも支えてやって欲しい」
エッ……。
何故?
いきなり、仁さん。
「どんな時でもって、仁さん。 あの……」
「彼奴は、背負ってきたものが重すぎたからさ。 だから……だから、これからは自分の人生を、自分の気持ちに正直に歩んで欲しいんだ」
「仁さん……」
自分の人生を、自分の気持ちに正直に……って、どんな人生を歩んできたの?
背負ってきたものが重すぎただなんて、いったい高橋さんは何を背負って生きてきたんだろう?
もしかして、ミサさんのことは高橋さんにとって、想像し難いほど辛いことだったの?
「今までの貴博は、貴博であって、貴博じゃなかったから」
「どういうことですか?」
難しすぎて、よく分からない。
「ん? 全て、自分を殺してきたから。 だからこそ、今まで誰にも見せることが出来なかったのに、陽子ちゃんと出逢って自分の気持ちに正直に彼奴がなれたってことは、本当に凄いことなんだよ」
「そんな……」
私には、そんな自覚も自負も全くない。
「だから、この先も本来の貴博自身の気持ちを大切にしてやって欲しい」
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