新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
高橋さんが、凄くオセロに強いのか。
明良さんが、凄くオセロに弱いのか。
そのどちらかになる。
だから、仁さんは帰れば分かるって。
そういうことだったんだ。
でも、何を?
何の決着をつけるために、オセロで勝負をしたの?
「仁さん。 このオセロは、何の決着をつけるための勝負だったんですか?」
明良さんは、何であんなにムキになって……。
あっ!
まさか……。
閃いた途端、思いっきり仁さんの方へ振り向いた。
「そう。 きっと、そのことを賭けてたんじゃない?」
仁さんに言われて直ぐ高橋さんを見ると、何事もなかったようにオセロの石を集めてボードを箱に入れると、机の引き出しにしまった。
「貴博に、相当良いことを言われたでしょ?」
「えっ?」
驚いて、仁さんの顔を見上げた。
まさか、仁さん。 
し、知ってるの?
「ストップ!」
聞き返そうと唇を開き掛けたところで、仁さんに止められた。 
「陽子ちゃん。 言わなくていいから」
仁さんが両手で、待った! のジェスチャーをしている。
「そっと、胸にしまっておいた方がいいみたい。 俺にも刺すような視線が来た」
仁さん……。
仁さんは、微苦笑を浮かべながら席に着いた。
あの夜の出来事は、きっと……。
高橋さんは、誰にも知られたくないし、言いたくないのかな。
だから、明良さんに 『 言わなくていい 』 と、言ったのかもしれない。
何だか嬉しいような、くすぐったい感じがする。
やっぱり、あの夜のことは2人だけの秘密にしておきたい。
時計に触れながら、高橋さんが幸せそうな顔をしていると教えてくれた仁さんの言葉が思い出された。

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