新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
会計の席から椅子をスライドさせて、中原さんが私を呼んでいた。
「あっ! 呼ばれているので、すみません。 し、失礼します」
「じゃあ、今度ゆっくり聞かせてね」
うっ。
背中越しに、嘲笑の混じった川本さんの鋭く叩き込むような声がした。
首を竦めて、怖くて振り返ることも出来ずに小走りで席に戻った。
「中原さん。 ありがとうございます」
本当に、助かった。
あまりのタイミングの良さに驚いてしまったが、中原さんに助けられたと心の中で感謝した。
「お待たせしました。 矢島です」
「高橋です。 忙しいところ悪いんだが、俺の机の左の捺印済みの書類入れに、光熱費会計報告書という表題の黄色い付箋がついてる書類があると思うんだが、それを封筒に入れて10階の会議室まで持って来てくれるか」
「はい。 かしこまりました。 直ぐに、伺います」
中原さんに断って、頼まれていたコピーの書類を一旦机の上に置いて、高橋さんに頼まれた書類を探して封筒に入れ、急いで10階の会議室へと向かった。
10階の会議室の前まで来て、肝心なことを聞くのを忘れていたことに気付く。
本来、もし会議中だったら、入ってはいけないんじゃないだろうか。
部屋に入っていってもいいのかどうか、それとも会議室の前で待つのか、ちゃんと聞けておけば良かった。
会議室の前で、暫くドアと睨めっこをしていると、いきなりドアが開いて高橋さんが出てきた。
「うわっ!」
急に高橋さんが現れたので、驚いて思わず仰け反ってしまった。
慌てて体勢を戻すと、そっとドアを後ろ手で閉めた高橋さんが、持ってきた封筒に目をやった。
「Thank you! じゃ……」
「あっ! いえ、あの……」
「悪いな。 会議中だから、また後で」
高橋さんは書類を受け取ると、また直ぐに会議室へ入っていってしまった。
失敗しちゃった。
今、言うべきことではなかったのに……。
会社では、やはり何となく遠い存在に感じてしまうが、それはこの前約束した通り。 仕事とプライベートは、割り切る。
ちゃんと、自分でも誓ったことだから、たとえ周りに誰も居なかったとしても、会社に入ったら上司と部下。
それに徹するというより、それが普通にならなければいけない。
川本さんのことを今話したところで、何も始まらないことぐらい、自分でも分かっているはずだったのに。
こんなことぐらいで、高橋さんの仕事の邪魔をしてはいけない。
後先考えずに行動せず、ちゃんと先を見越して物事の判断が出来るようにならないと。
高橋さんの傍にずっと居られるように、もっと努力しなくては。
心の中で、反省と気合いを入れながら、またエレベーターに乗った。
「あっ! 呼ばれているので、すみません。 し、失礼します」
「じゃあ、今度ゆっくり聞かせてね」
うっ。
背中越しに、嘲笑の混じった川本さんの鋭く叩き込むような声がした。
首を竦めて、怖くて振り返ることも出来ずに小走りで席に戻った。
「中原さん。 ありがとうございます」
本当に、助かった。
あまりのタイミングの良さに驚いてしまったが、中原さんに助けられたと心の中で感謝した。
「お待たせしました。 矢島です」
「高橋です。 忙しいところ悪いんだが、俺の机の左の捺印済みの書類入れに、光熱費会計報告書という表題の黄色い付箋がついてる書類があると思うんだが、それを封筒に入れて10階の会議室まで持って来てくれるか」
「はい。 かしこまりました。 直ぐに、伺います」
中原さんに断って、頼まれていたコピーの書類を一旦机の上に置いて、高橋さんに頼まれた書類を探して封筒に入れ、急いで10階の会議室へと向かった。
10階の会議室の前まで来て、肝心なことを聞くのを忘れていたことに気付く。
本来、もし会議中だったら、入ってはいけないんじゃないだろうか。
部屋に入っていってもいいのかどうか、それとも会議室の前で待つのか、ちゃんと聞けておけば良かった。
会議室の前で、暫くドアと睨めっこをしていると、いきなりドアが開いて高橋さんが出てきた。
「うわっ!」
急に高橋さんが現れたので、驚いて思わず仰け反ってしまった。
慌てて体勢を戻すと、そっとドアを後ろ手で閉めた高橋さんが、持ってきた封筒に目をやった。
「Thank you! じゃ……」
「あっ! いえ、あの……」
「悪いな。 会議中だから、また後で」
高橋さんは書類を受け取ると、また直ぐに会議室へ入っていってしまった。
失敗しちゃった。
今、言うべきことではなかったのに……。
会社では、やはり何となく遠い存在に感じてしまうが、それはこの前約束した通り。 仕事とプライベートは、割り切る。
ちゃんと、自分でも誓ったことだから、たとえ周りに誰も居なかったとしても、会社に入ったら上司と部下。
それに徹するというより、それが普通にならなければいけない。
川本さんのことを今話したところで、何も始まらないことぐらい、自分でも分かっているはずだったのに。
こんなことぐらいで、高橋さんの仕事の邪魔をしてはいけない。
後先考えずに行動せず、ちゃんと先を見越して物事の判断が出来るようにならないと。
高橋さんの傍にずっと居られるように、もっと努力しなくては。
心の中で、反省と気合いを入れながら、またエレベーターに乗った。