新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
急いで席に戻り、先ほど中原さんに頼まれていたコピーのレジメを2部作って、1部を高橋さんの机の上に置いて、原本とコピーした1部を中原さんに渡した。
「ありがとう。 もし、切りが良かったら、先に食事に行っていいよ」
「えっ? もう、そんな時間ですか?」
時計を見ると、すでに12時をまわっていた。
「あれ? いい時計してるね。 もしかして……」
そこまで言うと、中原さんは高橋さんの机の方を顎で合図した。
中原さんの勘の鋭さに驚いたが、小刻みに頷きながら直ぐさま口の前に人差し指を立てて、思いを訴えた。
すると、中原さんは胸の前でさり気なくOKのマークを作って見せて笑っていた。
「そ、それじゃあ、お先にお昼に行ってきますね」
「うん。 行ってらっしゃい」
中原さんに言われたとおり、行かれる人からこういう忙しい時は行かないと、後が大変になってしまうから。
時計のことを気にしながらそのまま社食に向かい、ざっと見渡したがまゆみの姿は見当たらなかったので、適当に窓際の席に座って日替わりランチを食べていると、目の前が少しだけ暗くなった。
誰か来たのかなと思って顔を上げた途端、お箸に挟んでいた卵焼きが力なくお皿に落ちたと同時に、お箸を持ったまま凍りついた。
「飛んで火に入る何とやら……じゃないけど、いいタイミングで会えたわね。 此処、いいかしら? 一緒に、食事しましょうね」
テーブルを挟んで向かい合うように、川本さんと土屋さんが前に座った。
「あっ! こっち、こっちー」
「まさに今、彼女から聞いたばかりなの。 私にもわかるように、説明してよね」
どうしよう。
土屋さんが食い入るように、俯き加減の私の顔を覗き込んだ。
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