新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
もの凄い形相で3人に睨まれ、今にも怒鳴られそうなくらい鼻息の荒さを感じだ。
もう、言葉が見つからない。
言い返されたら、終わりだ。
「誰に向かって、言ってるのよ!」
先ほどまであまり話さなかった、紺野さんの冷ややかな声がする。
まるで火に油を注いでしまったみたいで、一斉に6つの目に捉えられて、呼吸することすら憚られるような空気だった。
「だったら、これ見よがしに会社にして来ないでよ。 見ていて凄く不愉快だから。 今直ぐ、外してくれない?」
そんな……。
川本さんが、右腕を直視しながらそう言った。
でも、これだけは外せない。
家に帰っても、お風呂に入る時ぐらいしか外さないんだから。
高橋さんと刻む、同じ時間。
この時計は、その証……。
誰に何と言われようと、外すのだけは絶対に嫌だ。
「嫌です」
思わず、口に出して言ってしまった自分に驚いた。
「何?」
驚いたように、土屋さんが聞き直してきた。
「私……外したくありません」
どうしよう。
もう、後には引けない。
でも、何故かそんな自分からの宣戦布告とも取られかねない言動に、何十倍にもなって反論が返って来ることにも、覚悟が出来ていた。
とはいえ、暫く反応がなかった。
不気味なほどの静寂に、3人の顔を恐る恐る見る。
納得してもらえたの? 
ま・さ・か……ね?
「へぇ……。 随分、偉くなったものね。 私達に、口答えするなんて」
やっぱり、納得してもらえるなんて安易な考えだった。
でも、ここで怯んではいられない。
< 69 / 237 >

この作品をシェア

pagetop