新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
すると、期待通りというか、当たり前というか、たちまち今までの不安な何分間は何だったんだろうとさえ感じられるぐらい、安堵出来る高橋さんの姿が見えた。
あまりにも不安そうな顔をしていた私に気づいたのか、高橋さんが小首を傾げながら近づいて来た。
「お待たせ。 先に、車に乗っていれば良かったのに」
高橋さんは、私の髪をクシャッとしながら上から撫でた。
この車のリモコンキーを持っていれば、解錠出来てドアが開くことは知っていたけれど、とても車まで行く勇気はなかったもの。
「あの、これ……」
握りしめていた車のリモコンキーを手渡すと、高橋さんは何故か私の顔をマジマジと見た。
「フッ……。 随分、温まってるな。 もしかして……」
「えっ?」
高橋さんが言い掛けて、言葉を切った。
「ちょっと、待ってろ」
それだけ言うと、いつものように車を取りに駐車場の暗闇の中へと消えて行ってしまった。
何が、もしかして……なの?
暗闇の中で車のドアが開く音が割と近くでして、高橋さんの足音が聞こえたのでエレベーターホールから駐車場に出た。
あれ?
高橋さんの姿が見えない。
でも、2、3メートル先に止まっている車は確かに高橋さんのもの。
おかしいなぁ。
首を傾げながら、車に近づいた。
「うわっ!」
「キャーーーーーーッ! ウングウグ……」
不意に、背後から両肩を持たれて声を掛けられたので悲鳴をあげたが、途中で高橋さんの手で口を塞がれた
「フッ……。 想像以上のリアクションを、ありがとう」
高橋さんだとは分かっていても、あまりの驚きと怖さで腰が抜けそうになってヨロヨロしてしまっていると、高橋さんが私の腕を持って引き寄せた。
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