新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「な、何で、こんな意地悪……ヒックッ……」
人間というのは、本当に恐いと足が竦んで動けなくなるという話は本当なんだと、改めて感じた。
だいたい、何でこんな子供じみたことをするのよぉ……。
意外と、高橋さんはお茶目だとは思ったけれど、本当は虐めっ子だったとか?
「ハハッ……やっぱり、恐がりだ」
そう耳元で囁くと、高橋さんはそっと抱きしめてくれた。
笑いごとじゃないのに。 
本当に、怖かったんだから。
高橋さんの胸に、顔を埋めて震える体をそっと預けた。
「泣くなって。 悪かった、悪かった! ヨシヨシ……久しぶりに、豆腐料理をご馳走してやるから」
「ふぉんどでずがぁ?」
高橋さんの胸に顔を押し当てながら喋ったので、間抜けな声の言葉になってしまう。
「泣き賃だ」
「じゃあ、豆乳アイスも付けてくれます?」
ちゃっかり、リクエストもしてみた。
だって、豆乳アイス、大好きだから。
「ああ。 売るほどあるから、幾らでもいいぞ。 それじゃ、行こうか」
力強く頷きながら、そのまま導かれるように助手席に乗った。
やっぱり私は色気より食い気が勝っていて、運ばれてきたお料理を前にしてみると、先ほどの高橋さんの意地悪等、すっかり忘却の彼方へと消し去ってしまっている。
そうだ!
聞いてみようかな……今朝、聞けなかったこと。
食事も終わって、お茶を飲んでいる時だったので、タイミングを見計らって高橋さんに聞いてみることにした。
「あの……」
私の声に、煙草を口に咥えて吸おうとしていたのを止めて、高橋さんがこちらを見た。
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