新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「社内恋愛というか、高橋さんと私って同じ部内ですよね。 会社的に、同じ部内で恋愛をしていていいんですか?」
勇気を出して、一気に聞いてみた。
その言葉に、高橋さんは暫く私を見ていたが、吸おうとしていた口に咥えた煙草を箱に戻し、そのままポケットにしまうと伝票代わりの木札を手に取った。
「出よう」
エッ……。
質問の応えは?
「あっ……はい」
高橋さんの応えを聞きたかったが、聞き返すのも何となく憚られて部屋を出て高橋さんの後に続いた。
会計でまた揉めたが、いくらお金を渡そうとしても全く受け付けられず、私の諭吉はまたお財布の中へと戻ってしまった。
駐車場までの庭の園路の敷石の上を慎重に歩きながら、高橋さんに続く。
しかし、急に高橋さんが立ち止まったので、その背中に激突しそうになりながら慌てて止まった。
「ど、どうしたんですか?」
すると、クルッと高橋さんは首だけ振り返った。
「星でも、見に行くか?」
「えっ?」
そう言って、高橋さんが空を見上げたので、それにつられるようにして私も空を見上げる。
「お前の時間が許すなら」
「うわぁ。 いいんですか? 行きたい! えっ……あっ。 時間なら、全然大丈夫です」
「フッ……。 じゃ、行くか」
「はい!」
さっきの質問の応えも気になってはいたが、今は本当に久しぶりに見られるあの満天の星空……。 そのことしか頭になくて、嬉しくて思わずスキップしたくなるような軽い足取りで車に乗った。

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