13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
 短期のアルバイトとして伯爵の会社に勤めて数日。伯爵はなかなかのやり手らしいという事が分かった。
 会社は急成長中だし、業績も上々。にも関わらず先代が作った莫大な借金と赤字領地の改善の問題はまだまだ解決しそうになくて、全部をこのまま伯爵が一手に引き受けていたら、いつか伯爵が倒れてしまうんじゃないかと心配になるほどだった。
 だが、ベロニカが一番気になったのはそこではない。

「伯爵のスマイルって本当に有料だったんですね」
 
 取引先との商談での様子を思い出し、伯爵のあんな満面な笑顔見たことないとびっくりしたようにベロニカはそういう。

「バカな事言ってないで、仕事してくれないか? 時間ないんで」

 流石に王女様雇用しました、はまずいのでベロニカは髪色を変えて変装し、伯爵も敬語なしで接している。
 それがなんだか新鮮でベロニカは嬉しくなる。

「もう終わってますよ。あとは書類提出するだけです。良かったですね、監査までに終わって」

 はいっと整えた書類を伯爵に渡して微笑むベロニカに、

「本当に優秀だな。このまま継続雇用したいくらいだ」

 感謝を述べて、切実にそう言った。

「ふふふ、もぉーと褒めてくださってもいいのですよ」

 ドヤ顔でそう言ったベロニカの金の眼を見ながら伯爵は、本当に助かりましたと彼女の頭を撫でて優しく笑った。
 予定より早く終わったので、伯爵はベロニカを夕食に誘う。
 うち、大したもの出せませんけどと言われたが、誰かのうちにお呼ばれすること自体初めてなので、ベロニカのワクワクは止まらない。
 案内された伯爵家はベロニカの離宮といい勝負なくらいボロボロで、沢山の修繕箇所が見られた。

「伯爵! 大工仕事が必要なら呼んでください。私、かなり得意です」

 ふふっと上機嫌なベロニカを見ながら、

「言ってなかったけど、俺も割と得意分野です」

 いつも無愛想な伯爵が、いつもより柔らかい口調でそう言って笑う。離宮で会う伯爵との違いに何故かベロニカの心臓が速くなる。
 
「……伯爵、今日は何か暗殺仕掛けてます?」

「いや、何の準備もしてませんけど?」

 流石に余裕ないの分かったでしょと言われ、ベロニカは前もこんな風に心音が速くなった事があったなと思いを馳せる。
 ベロニカの思考が答えを出すより早く、ひょっこりと可愛い少女が顔を出す。

「わぁーお兄様が女の子連れて来た。ついにお嫁さんまで拾ってきたの?」

「何でそうなるんだよ。失礼だろうが」

「だってお兄様のお人好しって筋金入りじゃない。昔からお兄様、犬でも猫でも妹でも弟でも従業員でも老人でも拾ってくるし。だから次拾ってくるならお嫁さんかなって」

「え!? 本当? おねえさん、お兄さまのお嫁さん?」

 会話を聞きつけてどこからか小さな男の子も駆けてきた。

「何ですか!? このかわゆい子達は!! ちっちゃい伯爵っ!! はぅわぁーかーわーいいっ! 破壊力ヤバいです」

 特に男の子の顔が伯爵にそっくりで、見上げてくる可愛い瞳にベロニカは悶える。

「なんでしょう。この胸のトキメキ。伯爵! 伯爵と結婚したらこんな可愛い子達にお義姉様なんて呼ばれちゃうんですか!? 伯爵! 今すぐ結婚しません?」

 可愛いすぎると胸を抑えたベロニカは、笑いながら伯爵にそういう。

「わぁーお兄様おめでとうー」

「おめでとー」

「するかーー!! ベル、ハルも悪ノリするな」

 べしっと弟妹に軽くデコピンする伯爵に、

「「「えーー」」」

 と、ピッタリ揃った声が抗議する。

「えーじゃねぇよ」

「じゃあせめてこの2人お持ち帰りしても?」

 きゅっと2人を抱きしめたベロニカが上目遣いに伯爵にお願いするが、

「他人の弟妹連れ去ろうとすんなぁぁ」

 べしっと強めに鉄拳が落ちてきた。

「本日の伯爵ツッコミいつもの2割増しですね!」

「あーもう。疲れる。マジで疲れる。おーまーえーら、ホント、いい加減にしろよ?」

 夕飯作る前にすごい疲れたんだけど、と伯爵は盛大にため息をついた。
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