13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
なるほど、と話を聞き終えた伯爵は、ベロニカの頭にポンポンと手を置いて、
「ベロニカ様、顔あげて」
と促す。
「……!!」
そろっと顔をあげたベロニカの口の中にチョコレートが放り込まれた。
「美味しい……です」
わさび入ってないからと以前ベロニカの機嫌を損ねた時のことを思い出しながらそう笑う。
「それ、桜チョコらしいですよ。嫌いなモノ食べちゃいましたね」
「桜……って食べられるんですか!?」
本当に抵抗なくなんでも食べるなと苦笑しながら伯爵は先程ベロニカの口に入れたチョコの残りを差し出す。
「花びら塩漬けしてお菓子の飾りにつかうらしいです」
「ふぇぇー知りませんでした」
あ、本当だとチョコの上に乗った花びらを興味津々に見るベロニカを見ながら、
「面倒なら、とっくに放り出してる。あと途中で放り出すのは俺の主義に反する」
だからいなくならないと伯爵は優しい口調でベロニカに話しかける。
目を丸くしたベロニカに、
「ベロニカ様が困らないように育ててから出ていくなんて、いい母親じゃないですか」
たんぽぽコーヒーもよもぎ茶も好きですよと伯爵は続ける。
「……そう、でしょうか?」
「要するにベロニカ様はお母さん大好きって話でしょ」
好きだからいなくなって寂しいって本当に甘えたの寂しがりですねーと揶揄うように伯爵は述べる。
「ヒトの悩みを一言でまとめましたね、伯爵」
心外だと頬を膨らませたベロニカを見ながら、
「この離宮を出たら、あなただってあっという間に大事なものだらけになりますよ」
それこそ、貧乏伯爵なんて目に入らなくなるんじゃないですか? と伯爵はベロニカを見てそう話す。
ベロニカがもし呪われ姫ではなかったらきっとたくさんの人に囲まれて求婚者が後を絶たないだろうと伯爵は思う。彼女はそれほどに聡明で美しいから。
「捨てられるのは、むしろ俺の方だと思いますよ。なので、不要な心配してないでとりあえず食べて寝る。それでだいたい解決します」
「伯爵のアドバイス雑っ」
そう言ったベロニカはクスクスと肩を震わせて、いつもみたいに元気よく笑う。
伯爵の言葉を反芻しながら、ベロニカは確かにそうかもしれないと思う。
だけど、とベロニカは伯爵の服を引っ張りながら、
「私が伯爵を捨てる日は来ません。伯爵は私の執着心を舐めすぎです」
私一途なんですよ、と大事なところはキッパリと否定しておく。
「伯爵、私桜の塩漬け作ってみたいです。なので、来年一緒に作ってくれませんか?」
そして"大嫌い"を全部食べ尽くしてやるのですと言ったベロニカに、
「ハイハイ。付き合ってあげますよ」
来年ね、と口にして笑った伯爵が了承を告げる。
手のひらの桜のチョコを見ながらベロニカは思う。桜を見ながら落ち込んでしまう日はきっとこれから先もあるだろう。
だけど、そんな日も来年の約束があってこんな風に伯爵がいてくれるなら、なんとなく大丈夫と言える気がした。
「約束ですよ! 伯爵」
甘い甘い桜のチョコを口に放り込んだベロニカは口内で春を満喫し、少しだけ桜が嫌いでなくなりそうな予感に初めて来年の桜が待ち遠しいとそう思えたのだった。
「ベロニカ様、顔あげて」
と促す。
「……!!」
そろっと顔をあげたベロニカの口の中にチョコレートが放り込まれた。
「美味しい……です」
わさび入ってないからと以前ベロニカの機嫌を損ねた時のことを思い出しながらそう笑う。
「それ、桜チョコらしいですよ。嫌いなモノ食べちゃいましたね」
「桜……って食べられるんですか!?」
本当に抵抗なくなんでも食べるなと苦笑しながら伯爵は先程ベロニカの口に入れたチョコの残りを差し出す。
「花びら塩漬けしてお菓子の飾りにつかうらしいです」
「ふぇぇー知りませんでした」
あ、本当だとチョコの上に乗った花びらを興味津々に見るベロニカを見ながら、
「面倒なら、とっくに放り出してる。あと途中で放り出すのは俺の主義に反する」
だからいなくならないと伯爵は優しい口調でベロニカに話しかける。
目を丸くしたベロニカに、
「ベロニカ様が困らないように育ててから出ていくなんて、いい母親じゃないですか」
たんぽぽコーヒーもよもぎ茶も好きですよと伯爵は続ける。
「……そう、でしょうか?」
「要するにベロニカ様はお母さん大好きって話でしょ」
好きだからいなくなって寂しいって本当に甘えたの寂しがりですねーと揶揄うように伯爵は述べる。
「ヒトの悩みを一言でまとめましたね、伯爵」
心外だと頬を膨らませたベロニカを見ながら、
「この離宮を出たら、あなただってあっという間に大事なものだらけになりますよ」
それこそ、貧乏伯爵なんて目に入らなくなるんじゃないですか? と伯爵はベロニカを見てそう話す。
ベロニカがもし呪われ姫ではなかったらきっとたくさんの人に囲まれて求婚者が後を絶たないだろうと伯爵は思う。彼女はそれほどに聡明で美しいから。
「捨てられるのは、むしろ俺の方だと思いますよ。なので、不要な心配してないでとりあえず食べて寝る。それでだいたい解決します」
「伯爵のアドバイス雑っ」
そう言ったベロニカはクスクスと肩を震わせて、いつもみたいに元気よく笑う。
伯爵の言葉を反芻しながら、ベロニカは確かにそうかもしれないと思う。
だけど、とベロニカは伯爵の服を引っ張りながら、
「私が伯爵を捨てる日は来ません。伯爵は私の執着心を舐めすぎです」
私一途なんですよ、と大事なところはキッパリと否定しておく。
「伯爵、私桜の塩漬け作ってみたいです。なので、来年一緒に作ってくれませんか?」
そして"大嫌い"を全部食べ尽くしてやるのですと言ったベロニカに、
「ハイハイ。付き合ってあげますよ」
来年ね、と口にして笑った伯爵が了承を告げる。
手のひらの桜のチョコを見ながらベロニカは思う。桜を見ながら落ち込んでしまう日はきっとこれから先もあるだろう。
だけど、そんな日も来年の約束があってこんな風に伯爵がいてくれるなら、なんとなく大丈夫と言える気がした。
「約束ですよ! 伯爵」
甘い甘い桜のチョコを口に放り込んだベロニカは口内で春を満喫し、少しだけ桜が嫌いでなくなりそうな予感に初めて来年の桜が待ち遠しいとそう思えたのだった。