13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
「いや、私もね。話には聞いていたよ? "伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ"っていう陛下の出したアホみたいな勅命」

 この国の誰もが思っても口に出さずに心に留めていたというのに、陛下の勅命をあっさり"アホ"と宣ったこの国の第7王子であるレグルは、ベロニカが差し出した怪しげな飲み物を手に取りクルクルと回しながら、ボロボロのソファーで楽しげに肩を震わせる。

「だけどまさか金がないって理由で貴族が自ら乗り込んで暗殺企てたあげく、呪われ姫に返り討ちにあってるなんて思わなかった。キース、お前もう完全に呪われてるじゃないか」

 ここ最近で一番笑ったと破顔するレグルは伯爵の首にかけられているプレートを指差す。そこには"売約済み"と書かれていた。

「あーはいはい。お好きなだけ笑ってください。って、姫、今度は何を作っているんですか?」

 伯爵はベロニカ作のグラデーションカクテルを口にして甘過ぎると眉間に皺を寄せ、何やら工作中のベロニカに視線を向ける。

「えっ、料金表ですよ?」

 ドヤーっとベロニカが2人の前に差し出したのは『ぼったくりBAR"離宮"』と書かれた料金表。

「明朗会計ですよ〜」

 お支払いは現金で♡と言ってベロニカはにこやかに手を出す。

「チャージ料高っ。ってタイトルからぼったくる気満々じゃないですか」

 座っただけで金貨1枚。
 勝手に出された飲食物を合わせるとすでに1月分の稼ぎに相当する金額が請求されている。
 ココが王城敷地内でメイド服で接客しているのが一国の姫だと思えば妥当な金額と思えなくもないが、今までここでこんな扱いを受けた事がない伯爵はさてどうするかと苦笑する。

「安心してください。伯爵は身体で払ってくれていいですよ」

 にこにこと楽しそうなベロニカは、すっと料金表をレグルに差し出す。

「おや、久しぶりに会った兄妹だというのに、随分ふっかけるね」

 ふわっと柑橘系の香りがする手の込んだ料金表を受け取ったレグルは、王家に所属している以外の共通点がまるでないベロニカに楽しげに話しかける。

「ふふ、だってせっかく金づるもといカモが離宮までやってきたと言うのに、この機会を活用しない手はないではないですか」

 うち予算割り当てられてなくて自給自足なもので。と笑うベロニカは粗茶ですと追加でレグルの前に自家製ハーブティーを差し出す。

「うん、何で言い直したのかな!?」

 言い直す必要あったかな? と固まる第7王子に、

「両方言いたかっただけですよ?」

 笑顔のまま更に追い討ちをかけるベロニカ


「……なぁ、キース。もしかして、私は歓迎されてないんだろうか」

「突然押しかけてきて私と伯爵の逢瀬を邪魔して歓迎されると思っていらっしゃるなんて、面の皮の厚さに感服です。さすが悪びれる事もなく王族に堂々と名を連ねるだけはありますね」

 そう言ってベロニカはにこやかに嫌味を並べる。

「私から伯爵を奪おうとするライバルはこれ以上必要ないのです」

 もう少し遠慮して欲しいものですとベロニカは伯爵の首にかかるプレートをさして所有権を主張する。
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