13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
「もしかしなくても歓迎されてないと思いますよ」

 ため息混じりにそう言った伯爵はベロニカの手からりんごと果物ナイフを取り上げる。

「貸してください。あなたがうっかり指でも切ったらナイフが使い物にならなくなります」

「大丈夫ですよー! その時はまた王宮からくすねてきますので」

「そういう問題じゃありません」

 呆れたようにそう言った伯爵は取り上げたりんごを器用に剥いて、あっという間にバラを作る。

「あと、ぼったくるならせめてこれくらいやってください」

「ふわぁぁぁーーー!! なんと細かなっ! 伯爵!! 他の! 他のもやってくださいっ!!」

 伯爵の作った飾り切りを手に取り、金の目をキラキラ輝かせたベロニカはそう言って強請る。

「ハイハイ。リクエストあります?」

 身体で払いますと言う伯爵に、

「生き物がいいです! 可愛いの」

 とベロニカは遠慮なくリクエストを述べる。
 そんな2人のやり取りを見て、レグルは驚いたように目を瞬かせる。

「何です? 殿下」

「いや、それなりに長い付き合いだが、私はキースがこんな風に笑っているのを初めて見たよ」

 ふっと揶揄うような目を向けるレグルに、

「……それは、あなたがロクでもない案件しか持ってこないからではないですか?」

 伯爵はいつもと変わらない口調で淡々と応対した。

「それにしても、伯爵が私以外の王族と知り合いだなんて驚きです」

 伯爵の作った飾り切りの果物を美味しそうに食べながら、ベロニカは珍しい来客者に目を向ける。
 基本的に呪われ姫であるベロニカの側に近寄ってくる人間は暗殺者以外いない。ましてや王族、と呼ばれる人種など公務に就く事すらないベロニカが会う事など皆無と言ってもいい。

「親友なんだ」

「ただの同窓生です。つまり限りなく関係の薄いただの他人です」

 レグルの自己申告を伯爵は秒で正す。

「……連れないこと言うなよ、キース」

 キッパリと否定され、レグルは苦笑を浮かべる。普通の貴族ならば王族と友人など金とコネを最大限駆使して手にしたいポジションだ。
 だが、この変わり者の男は違う。

「事実ですので」

 学生の頃からいつもそうだった。
 レグルがちょっかいをかけなければ、けして近づいて来ることはなく、裏表も忖度もなく、ただ淡々と必要な対応するのだ。

「お前は本当に変わっているな、キース」

 黒板に正しい解を綴るように、ただ淡々と。
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