13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
「やっぱり、伯爵はとっても偉いと思います」

 伯爵の話を聞き終わったベロニカは、目一杯背伸びをし、まるで子どもにするかのように伯爵の頭を撫でる。

「誰も褒めてくれないなら、私が伯爵を……キースの事を褒めてあげます」

 そう言ってとベロニカは少し驚いて大きくなった黒曜石の瞳を見ながら笑う。

「先代伯爵にしても、何もしていない、なんて事はないでしょう?」

 失礼ながら伯爵の過去は勝手に調べて知っていますとベロニカは静かに言葉を紡ぐ。

「先代伯爵が助けを求めたのに、疫病を外部に出すまいと領地ごと国民を切り捨てたのは、この国の王家です」

 そして、その責任を全てストラル伯爵家に被せた。

「あなたのお父様は擦りつけられた全ての責を受け入れ自らの命を差し出す代わりに、残された領民への支援を取り付けた。でも、そんな契約は国の都合でなかった事にされた」

 誰からも手を差し伸べられることもなく封鎖された領地で、なす術もなく権力に殺された。
 残ったのは、荒れた領地と莫大な借金。

「あとは爵位を回収して、国が良いように事実を湾曲して事態を収束させるつもりだったのでしょうけど、あなたが借金諸共全てを背負って爵位を継いだ。卒業後決まっていた、国の研究機関の内定を辞退して」

 自分達だけ楽になる方法なら、いくらでもあったはずなのに、伯爵はそうしなかった。
 そして今もまだ、彼は逃げずにここにいる。

「こんなに頑張ってるキースが偉くないわけないでしょう。私がいっぱい褒めます」

 なんなら褒め倒しますと宣言したベロニカは伯爵の手を取ると、

「一国の姫として、王族に名を連ねているくせに、何もできなくてごめんなさい」

 そう静かに謝罪した。

「……初めから知っていたんですか?」

 落としましたよと呪われ姫の暗殺で使用したナイフを自分の元の届けに来た時から?
 だから、自分に"殺して欲しい"なんて依頼して来たのか、と伯爵の目が問いかける。

「前にも言った通り、あなたが私の部屋にたどり着いた理由は私にもわかりません。ただ、誰かと呼んでいた私のところに来てくれたあなたに興味を持って調べたらストラル伯爵家に起きた出来事を知りました」

 王都から遠い領地の、王家のせいで起きた悲劇。
 誰からも見向きもされず、切り捨てられた所に自分を重ね、ベロニカは伯爵に勝手に親近感を覚えた。

「だからといって、私にできる事など自分の首にかかっている褒賞金を受け取る権利をあなたにあげるくらいだったのですけれど、それすら簡単にはできなくて」

 何せ呪われているもので、といつもの口調で肩をすくめたベロニカは、

「だから、今は生きてキースのお役に立てる自分になりたいと思っています」

 静かにそう決意を述べる。

「もう、いっそのこと伯爵の事を困らせる王家なんて滅べばいいとすら思ってます。だからもし、伯爵が望むなら私は復讐でもなんでも、付き合いますよ!」

 行き着く先が地獄でも、2人ならきっと寂しくはないでしょうから。
 満面の笑みを浮かべて物騒な事を述べるベロニカの金色の瞳を見返して、

「ふは、姫は本当に……変わった人だ」

 吹き出すように伯爵は笑う。

「伯爵が笑っ……爆笑!? えっ! え、なんで今!? ちょ、カメラ持ってない……写真!! 貴重な瞬間の記録をっ」

 声を立てて笑う伯爵を前にして狼狽えるベロニカに手を伸ばし、伯爵は彼女の事を抱きしめた。
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