13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
 夏が終わりを告げる頃、国中に鐘が鳴り響いた。
 呪われ姫は討ち取られたという新しい陛下の宣言とともに。

「いやぁー思いの外盛大なお葬式ですね! 伯爵」

 セレモニーの中心地から少し離れた小高い場所で楽しげに自分の葬儀を眺めるベロニカは、

「何をやったんです? 伯爵」

 歌うような口調でそう尋ねる。

「大したことはしていません。強いて言うなら王家の暗殺、といったところでしょうか?」

「暗殺、ですか」

「ええ。新しい時代の幕開けに相応しい民衆が好みそうな筋書きをレグル殿下に献上しました」

 いくつかの嘘と本当を織り交ぜてと伯爵は人差し指を唇にあて、内緒ですよと笑う。

「7番目のお兄様がよく取引に応じましたね」

「レグル殿下は元々反逆の準備をしていたようなので、そこに便乗させてもらいました」

 伯爵が提供したのは代替わりを成し遂げるために足らなかったパーツ。

「王位を継ぐに相応しい人間がいて、誰の目にも明らかな功績があるのなら"呪われ姫"を正統な継承者として旗印に掲げる必要もないでしょう? だから、呪われ姫には"死んで"もらいました」

 呪われ姫の殺害。
 誰にも成し遂げる事のできなかったそれは、本人(呪われ姫)と発言力のある王家の人間(第7王子)の結託で成された自作自演のストーリー。
 国に降り注ぐ不幸ごとは全て"魔女の呪い"と嘯いて。
 都合の悪い事は全て呪いのせいと蓋をして。
 その諸悪の根源である"呪われ姫"を滅することでなかったことにした。

「"仮死状態になる薬"なんて本当に存在するんですね。びっくりです」

 そう言ったベロニカは小瓶に入った薄紫のきれいな液体を軽く振る。

「実際には心臓止まらないんですけどね」

 それは"呪われ姫"が暗殺されたと見せかけるための小道具。
 その小瓶の中身を見つめながら淡々とした口調で伯爵は話す。

「現代において知っている人は、ほとんどいないと思いますよ。俺も初めて作りました」

「ふふ、なかなか貴重な体験でしたよ」

 ベロニカは先日からの出来事を楽しげに振り返る。
 伯爵に渡されたその薬を打ち合わせ通りレグルに追い詰められてから飲んだベロニカは瞬時に陛下の御前で倒れた。
 その後死亡判定を受けたベロニカが数時間後に目を覚まし、底が開くようになっていた棺からこっそり抜け出す。ヒト一人分の重さがある荷物を代わりに詰めて。
 呪われ姫が棺から出ることがないようにと派手に鎖を巻かれているその見た目に騙されて誰も疑う事はなく、死亡確認以降はその存在を確かめられずにいくつもの思惑と一緒に全て灰になった。
 だから民衆向けに用意された呪われ姫の葬儀には、何も入っていない棺が新たに用意され、本日のセレモニーが行われている。
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