13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている
「それにしても伯爵、どこでこんな薬のレシピを見つけてきたのですか?」

 本当に物知りですねとベロニカは楽しそうに笑う。

「禁術書庫です。あそこの文献の中から見つけました」

「ではいずれこの謀は気づかれてしまわないでしょうか?」

 禁術書庫は制限がかかっているとはいえ全く閲覧できないわけではない。

「大丈夫ですよ。そもそも王国初期の文面を解読できる人間自体がほぼいないので」

 ベロニカの不安を取り除くように伯爵は即座に否定する。

「禁術書庫に収められている建国当初の文献に綴られた特殊文字。その研究をしていた第一人者はもうこの世にいませんから」

 その研究結果はもうこの世界のどこを探してもないのです、と伯爵は淡々とした口調でそう述べる。

「その研究者って、もしかしなくても伯爵のお父様ですか?」

 ベロニカの問いに伯爵は静かに頷くと、

「"月光草"。万病薬を求める過程で研究された特殊文字の解読。その研究成果が研究機関に登録される前に父は国から切り捨てられました。だから父と共に燃やしました」

 全部を暗記して燃やせという遺言だったので、とどこか遠い目をしてそう言った。

研究成果(父の生きた証)を渡さない。それが俺の国への報復です」

 なので黙っていればバレませんよ。
 そう言って伯爵がベロニカに差し出したのは、満月の下で咲く花の雫を使って万病薬が作れるとされる"月光草"という空想上の植物のモデルになった花。

「それに仮に解読できたとしたもこの花には微量の毒があることで植物学者の間では有名です。その一面だけが広く知られるこの花を使って"仮死状態"になる薬を作ってみようだなんて、そんな酔狂な人間もいないでしょうし、いたとしても再現は難しいでしょう」

 この花の蜜には、毒がある。だが、それを集め正しい分量で複数の材料と煮詰めて成分を抽出するとその薬が作れるのだ。ただし一緒に使用する他の材料自体が希少なので、簡単に作れるものではないのだが。

「あなたに"毒"は効きません。正確に言うならこの薬の効果は回復薬。仮死になるのは身体の不調を回復させるのに集中する過程で起きる現象に過ぎません。命に関わるものでなければ、ベロニカ様にも有効であるのは、あなたへの"暗殺"を通して実証済みです」

「なるほど! 確かにぐっすり眠れました」

 そしてすごく快調ですとベロニカはその薬の効果を評価する。
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