花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜
◇到着
櫻月家を出て、結華郷の中心部にある長宗我部家に着いたのは空が茜色に染まった頃だった。
「紗梛さん、着いたよ」
「えっ、あ……す、すみません。眠ってしまって!?」
「いいえ、疲れたのでしょう……気持ちよさそうに寝ていたので起こすのは申し訳ないと思ってな」
「そうでしたか……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
なんたる失態……!どれだけ座り心地が良くても、長宗我部様に迷惑をおかけするなんて。
「謝らないでいい。さぁ、降りようか。御者が今かと待っているから」
小さな窓から見ると御者の方がそばで待っているようだった。長宗我部様が扉を開けるのを待っているのだろう。そわそわしている様子が見えた。
長宗我部様が扉を開ければ御者の人が「お疲れ様でございました」と言いお辞儀をする。それにありがとうと長宗我部様が告げると、私が降りやすいように手を差し伸べてくれた。