花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜
「あと、一応君に見せるが……これを」
私の目の前に一つの封筒が置かれる。彼の顔をチラッと見ながらその中身を取り出して一枚の紙を開けた。
「あの、これって……」
「あぁ。君の異母姉の成績結果と生活態度についての報告書だ」
成績結果には『和文学』『欧語学』『裁縫』『礼式』『習字』『和歌』『琴』などの科目が並んでいて、ほとんどが『丁』と記されている。
「……あの、これ本当なんですか? 私、代わりに行っていましたがお琴や習字、和歌などは令嬢なら幼い頃から嗜んでいるものだと思うのですが……」
「あぁ、それは大体そうだな。紗梛さんは出来るのかい?」
「はい、母が生きていた頃は私にもお優しかったですから令嬢としては大切なその三つもですが茶道などもさせてもらっていて香道もその一つです」
だけど、綾様は苦手だと聞いたことがある。だから母にも力になってあげてと言われていたし。
「そうなのか。だが、これはまずいことになるだろうと試験を受け持った教師が言っていた。女学校は帝国管轄で成り立っている学校で皇后様が始めた事業の一つだからね」
「……っ……」
あぁ、それはとてもまずいかもしれない。私でも分かるくらいだ。それに、綾様は櫻月流香道本家の娘なのに香道ができない。それがもし、世間に知れ渡ったら大変なことになる。……櫻月家は終わりなのでは?と思ってしまうほど。