花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜



 ***


 まだ外は薄暗く陽も出ていない頃。私は自然に目が覚めて体を起こした。


「あ、夢……」


 私は布団を取り、窓の方へ歩き窓掛けを開けた。まだ外は暗くて敷地内にある外灯で少しだけ明るい感じだ。部屋の灯りをつけようと思ったがつけたら他のみんなが起きてしまう気がして手を止めた。


「……けど、することないなぁ。それかお台所に行ってみようかな。何かお手伝いできることがあるかもしれないし」


 私は士貴様にいただいた淡い水色の生地に矢絣柄(やがすりがら)のお着物を一人で着てアイボリーの落ち着いた帯を締めた。髪を結い上げてから鏡で変じゃないか確認してから部屋を出て台所を目指した。

 台所に行くとやはりもう料理人さんはいて準備をしていたので小さい声で挨拶をしたが聞こえなかったようで反応がなかった。だから大きな声を出すためお腹に力を入れる。


< 34 / 84 >

この作品をシェア

pagetop