花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜



「更科家は、櫻月と流派は違うが同じ香道を生業にしていた家元同士だ。櫻月は昔、武士が作法や礼儀を通して精神を鍛練することが目的としてやっていた流派だ。でも、更科家は、貴族たちが香あそびをしたり雰囲気を楽しんだりして心に余裕を得ることを目的に嗜んでいたものだ。それに、更科家のあの香道具は、帝から献上して頂いたものであるからだ。昔、更科家には姫が降嫁しているからその時に持たせたと言われている」

「……そんなにすごいお家だったのですか? なのに、なぜ、没落に」

「それは、華乃宮毘売様の生まれ変わりが生まれなかったからだよ。神を末裔に持つ我々には、神の生まれ変わりは重要な存在だ。家が栄えるかは生まれ変わりがいるかいないかでは明らかに違う。たとえ、家督を継いだものが優秀であってもね」


 じゃあ、もし、母が没落前に更科の嫡女としてお婿さんを貰い結婚をして私が生まれていたら更科家は今も続いていたかもしれないと言うことかしら……ということは、もしかして、櫻月家は私がいたから栄えているっていうのもあったり?それは考えすぎか。


「あの、更科家ではない場所にいたのに……何故、生まれ変わり(わたし)が櫻月にいるとわかったのでしょうか? わたしは、あの家にとっては庶子であり綾様の身代わりとしていました。なのに何故、私がいるのがわかったのか不思議で。香りだけじゃ、居場所はわかりませんよね?」

「それは今から話そうと思っていたんだ。紗梛さん、これを」


 貴文様は次に今までの資料は冊子だったのだが、巻物を取り出し私に広げて見せた。

< 67 / 84 >

この作品をシェア

pagetop