花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜
「わかったはいいものの、更科家は没落していて当主や当主夫人、そのご子息らの行方もわからなかった。香りだけを頼りに総出で探した。そして、櫻月家にいることを突き止めた」
それで、士貴様が私に会いにきたということか。でもそんなに私は橘花の香りがするのだろうか自分では自覚ない。
それを問いかけると、その香りは士貴様しかわからない香りということだった。
「あの、士貴様。貴文様。私が生まれ変わりだというのはわかりました。ですが、婚姻には帝の印が必要ですよね? 私の身分は、あくまで櫻月家の当主がお手付きをして出来た子……庶子です。全く、釣り合っていません。世間がなんとおっしゃるか」
「紗梛、大丈夫だよ。釣り合いは取れている」
「そんなことは……」
士貴様は自信満々に「大丈夫だ」と再度、私に言った。
「君は正真正銘の更科家の娘だ。持っている香道具、さっきも言ったが先代帝から献上したものだし確認はしてあり城にも文献は残っている。それに君は香道に関しては完璧で、櫻月流も更科流もどちらもできる。一方で、君の義姉はずっと紗梛に押し付けていたから香道の作法もわかるはずない。もし、とってつけたように二日三日稽古をしたところで上手くはできない。それだけ、積み重ねが必要なものだ。知る者なら誰にだってわかる……君が一番、更科家の娘としても櫻月家の娘としてもふさわしいんだと」
「……っ……」
褒められて私は少し恥ずかしくなって目が泳いでしまった。きっと今、顔は真っ赤になっているだろう。