花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜

◇香席



 翌朝起きて食事を済ませると、女官の方数名が打掛を着替えをさせてくれた。

 打掛は、長宗我部家を象徴する白綸子に今流行している牡丹の花のレース刺繍が施されている。帯は、紅色で牡丹の花が描かれていて、帯揚げは実家の桜色。
 全て士貴様が用意してくれたもの。


「お綺麗ですよ」

「ありがとうございます……お化粧も素敵に仕上げていただきありがとうございます」

「いえ! とても私たちも楽しかったですよ。今日の香席は私共も参加させていただく予定で……とても楽しみにしてます」

「ありがとうございます、皆さま。精一杯のおもてなしをさせていただきます」


 私は皆にお礼を言えば、案内をしてくださる役人の方が迎えにきてくださり広間へと向かった。


 お城の広間は、昨夜の夜会の会場の近くにある。家にあるよりも広く何人が入るんだろうと思うくらい大きかった。


「では、沙梛様。こちらでお待ちください」

「ありがとうございます」


 案内されたのは座席。どういった決め方なのか、綾様からすることになっている。
 綾様は、元々評判がよく参加者からは綾様が圧倒的だろうという声が聞こえている。
 だが、今までは私が代わりに出ていたため香道の作法なんてものわからないのでは?と思ってしまう。それに稽古をサボり始めたのは女学校に入ってすぐだからもう三年以上香道をしていないはずだし、道具も触っていないと思われる。

 役人の方に呼ばれて綾様は立ち上がって歩き出すが打ち掛けで袖捌きすら上手くできていない。
 それに周りがザワザワし始めてしまっていた。

 なんとか香間に来れた綾様だが、最初から何をすればいいのかわからずボーッとしている。体調が悪そうに一見見えたが、正客には、帝に女御が並び東宮も座っているために緊張しているのだろうと周囲には思われているようだった。
 

< 78 / 84 >

この作品をシェア

pagetop