別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
第一章 これが倦怠期? Side瞳

1. 二人の生活

「あ、もう、拓海(たくみ)ー。シンク使ったら拭いてって言ってるじゃん」
「あー、ごめんごめん」

 そのやる気のない返事を聞いて、西浦瞳(にしうらひとみ)は大きなため息をついた。瞳がきれいに拭きあげたはずのキッチンシンクには所々に水滴がついている。シンク内だけならまだしも蛇口付近にまでついていて、瞳はその状態に苛立ちを覚えた。水滴がついたままだと水垢が溜まってしまうから、瞳は毎回シンクをきれいに拭きあげるようにしている。そして、それを夫である拓海にも言い聞かせているのだが、拓海はしばしばそれを怠る。そのたびに瞳が文句を言いながら、自分でもう一度拭きあげるはめになるのだ。

 一緒に暮らしはじめたころは、拓海もそれなりに歩み寄りを見せてくれていた。瞳がこうしてほしいと言えば、いつも笑顔でそれに応えてくれていた。けれど、一年、二年と時が経つにつれ、拓海は段々と面倒になってきたのか徐々に適当に済ませることが多くなってきた。それはシンクの拭きあげに限らず、あらゆる掃除の仕方に、洗濯物の干し方に、果てはトイレの使い方にともう文句を言いだしたらキリがない。

 瞳だって自分が神経質すぎることはわかっている。本当に口うるさいだろうと思う。それでも瞳としてはそこまで難しいことを求めているわけではないし、それに拓海はお客様ではなくて一緒に暮らす家族だから、どうしても拓海が協力してくれないことに苛立ちが募ってしまうのだ。

 そんな状態だから、口を開けばついつい文句を言ってしまいたくなって、瞳はいつの間にやら拓海との時間を積極的には持たなくなってしまった。同じ家にいてもそれぞれ一人の時間を過ごしていることが多い。

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