別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
『もしもし。どうしたの?』

 会社に行っているはずの拓海から電話がかかってきて、瞳は慌ててそれに応答した。まだ午前で仕事中のはずなのに、電話をかけてくるなんて何かあったのではないかと思ったのだ。

『瞳。悪いんだけどさ、ちょっと探し物お願いしていい?』
『え、うん』
『俺、週末に鞄新しくしただろ?』

 そう言われて少しだけ記憶を遡り、拓海が鞄を新調していたのを思いだした。大分古くなったからと新しい鞄へ中身を移し替えていた。

『あー、そうだね』
『古いほうの鞄にさ、名刺入れが入ってないか見てくんねぇ?』
『わかった。ちょっと待ってね』

 瞳は拓海の鞄がある場所まで移動し、鞄の中を探ってみた。中を覗いてみると一見何も入っていないように見える。瞳は鞄を探りながら、拓海にどこに入れていたのかを問うた。

『拓海ー、どこに入れてた?』
『鞄の中のポケットに入れてたはず』
『ポケット……』

 内部にはいくつかポケットがついていた。適当に中のポケットを探っていく。すると、何やら紙と思われるものに手が触れて、瞳は関係ないとは思いつつもいったんそれを取りだした。

 書類か何かだろうと思い、瞳は何気なくそれに目を向けたが、その瞬間に瞳は時が止まったように動けなくなってしまった。周りのすべてが止まってしまったように感じる。それなのに、自分の鼓動だけはドクドクとしてうるさい。耳障りなそれは、瞳が今の状況を理解していくとともにスピードを速めていった。

「……なんで……」

 拓海の鞄になぜそれが入っているのかわからない。自分がそれを手にすることがあるだなんて夢にも思わなかった。俄には信じられなかった。だって、瞳が取りだしたその紙は離婚届だったのだから。
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