別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「瞳の泣き顔はかわいいけど、瞳が苦しんでるところは見たくないな。瞳のつらそうな表情を見たら、胸が張り裂けそうだった」
「拓海……」
「もう他に心配事はない?」
「大丈夫。もう何もない」

 瞳はそう言って笑顔を見せてくれたから、拓海はようやく心から安堵することができた。

「拓海、キスして?」
「ああ」

 キスをねだってくる瞳がかわいくて、拓海は激しく口づけたかった。けれど、今は瞳を癒すほうが大事だと、拓海は優しく瞳をかわいがるように何度も口づけた。そうやって口づけを繰り返していれば、瞳は安心したのか、徐々にその瞼を下げていった。

「このまま寝てもいいぞ。ベッドまで運んでやるから」
「うん……でも、お風呂入りたいし、洗い物とかしないと」
「家事は俺に任せておけ。瞳は早くお風呂に入ってもう寝ろ。泣き疲れただろ?」
「うん、ありがとう」

 瞳を先に寝かせ、拓海が残っていた家事を済ませた。拓海が寝室に入る頃には、瞳が寝室に移動してから一時間くらいが経っていた。さすがにもう眠っているだろうと、拓海は瞳を起こさないようにそっと移動してきたが、眠っているはずの瞳を覗き込むと、瞳は目を開けたままでベッドに横たわっていた。

「ごめん、起こした?」
「ううん。一人だと淋しくて眠れなかった」
「そうか。じゃあ、おいで?」

 拓海もベッドに横になり、両手を広げてやると、瞳は正面から拓海の胸に縋りついてきた。瞳は甘えるように拓海に顔を擦り寄せてくる。すっかり瞳に信頼してもらえたようでとても嬉しい。彼女を愛したい気持ちがどんどん増幅していった。

 拓海は、瞳を眠りへと誘うように優しくその頭を撫でた。安心して眠ってほしい。そう思いながらそれを続けていると、次第に瞳の体から力が抜けていき、今度こそ彼女は眠りに落ちた。

 自分の腕の中に愛しい存在があることを感じていたくて、拓海はしばらくの間、瞳の穏やかな寝顔を眺めていた。
< 138 / 156 >

この作品をシェア

pagetop