別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~

2. 愛で満たされて Side瞳

 目覚めるとすぐに拓海の姿が目に入ってきた。どうやら一晩中抱きしめていてくれたらしい。彼に包み込まれている状況に胸がじんわりと温かくなる。

 今の目線だと見えているのは彼の胸の辺りだが、微かに呼吸で動いている以外ピクリともしない。まだ眠っているのだろう。拓海の顔を見たくてそっと目線を上げていくと、瞳の視界に入ってきたのは彼の寝顔ではなかった。しっかりと視線が合ってしまって驚いた。動いていないだけで拓海は先に起きていたらしい。

「……おはよう」
「おはよう、瞳」

 拓海の優しい表情に心が凪いでいくとともに、徐々に昨日醜態をさらしたことが思いだされて、いたたまれない気持ちになる。拓海のせいではなかったというのに、変な態度を取って、随分と取り乱してしまった。思いだすだけで恥ずかしいし、申し訳ない気持ちにもなる。

「……昨日はごめんね」
「瞳は何も悪くないって言っただろ? 俺のほうこそ不安にさせてごめんな」
「拓海は悪くないから!」

 少しも悪くないはずの拓海が謝ってくるから、思わず強く反論してしまった。拓海はただ厄介ごとに巻き込まれてしまっただけだ。一番の被害者だろう。

「でも、過去の俺が瞳にその疑いを持たせたから」
「違う。私が勝手に怖くなっただけ」
「そうさせたのは俺だよ。だから、今日は丸一日かけて瞳のこと愛していい?」
「え?」
「ちゃんと瞳が俺に愛されてるんだって、少しの疑いもなく実感できるように愛したい。だから、今日一日瞳の時間ちょうだい? いい?」

 その問いに頷くのはあまりにも欲しがっているようで恥ずかしい。けれど、愛する人から愛したいと言われて断れる人がいるだろうか。それに今は拓海に甘えたくてたまらない。大事な人を失う可能性に恐怖したあとだから、そばにいられる事実を少しでも感じていたい。だから、瞳には頷く以外の選択肢はなかった。
< 139 / 156 >

この作品をシェア

pagetop