別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 しっかりと磨き上げ、二人ともベッドの上に戻ってくれば、やはり恥ずかしさがこみ上げてくる。けれど、拓海の表情はとても穏やかで、夜に体を重ねるときとはまた違った雰囲気をまとっている。いやらしさはまったくなくて、むしろこれから行うのはとても神聖な行為なのではないかとそう感じられた。

「今日は話しながらゆっくりしようか」
「うん?」
「性急に求めるんじゃなくて、二人の気持ちを確かめるようにゆっくり触れ合いたい。いい?」
「いいよ?」

 拓海が具体的にどういうものを想定しているのかはわからなかったから、瞳は彼にすべてを委ねてみた。そうして始まった愛の時間は、ちっとも恥ずかしいものなんかではなかった。心の奥の奥まで互いの愛を伝え合う、とても穏やかで優しくて温かい幸せの時間だった。

 拓海は言葉通り本当にゆっくりゆっくりと進めてくれた。何しろ最初は抱きしめ合って、ただ会話をしていたくらいだ。会話の内容はいつもよりも甘かったけれど、変に情欲を煽るようなものではなくて、優しく心をくすぐられて、思わず笑みをこぼしてしまうようなそんな温かなものだった。

 互いの肌に触れ合う行為も少しも急いた様子はなくて、触れた肌から心へ愛を送り込んでいくようなとてもとても優しいものだった。触れ合っている最中も二人はずっと何かしらを話していて、今の行為が特別なものではなくて、二人にとって当たり前のものなのだと教えられた気がした。

 刹那的でないその穏やかな触れ合いは、これからもずっとずっと続いていく二人の愛の時間だとそう思えた。

 そして、互いに昇りつめてしまえば、瞳の心は快楽以上に強烈なものを感じていた。信じられないくらい大きな拓海の愛とそれに負けないくらいの拓海への愛を。
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