別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「実は瞳に言い寄ってるやつがいるって話を下山から聞いて、それで告白決心したんだよ」
「え? 何それ。私、誰にも言い寄られたりしてないんだけど」
「は? え?」

 それでは下山から聞かされていた話と違う。もしかすると瞳本人は言い寄られていたことに気づいていなかったのだろうかと正解を求めて下山に目を向けた。下山はいたずらがばれてしまったような顔をしている。

「どっちも告白しようとしないから、私がわざと煽ってあげたの。まあ、瞳のことよく想ってそうだなってのは何人かいたけどね。でも、瞳はガードが堅いから手を出そうってやつはいなかったかな」
「え、嘘だったのか!?」
「ごめん。西浦追い込むのが一番効果的だと思ったから」

 どうやら拓海は下山の手の平で踊らされていたらしい。

「ちょっと、私の知らないところで変な嘘つかないでよ……拓海に誤解されてたら大変だったじゃん……」
「ごめんね。でも、ちゃんと脈ありなのは西浦だけとも言っといたから」
「ちょっと、芳恵……いや、まあ、それは事実だけど……」

 瞳は困惑の表情になっているが、拓海はあれが嘘だったとしても、やはり拓海にとってはいいことだったと思う。下山が二人を想ってしてくれたことに変わりないだろう。

「……俺はやっぱり感謝してる。嘘だとしても。そのおかげで瞳と付き合えたんだから。マジでありがとう」
「……確かにそうだね。私も嘘はともかく、裏で協力してくれてたのは嬉しいかな。芳恵、ありがとう」
「あはは。そういう二人だから協力したの。ちゃんと幸せでいてね?」
「大丈夫。幸せだから。な?」
「うん。幸せだよ、すごく」

 拓海と瞳の様子を見て、下山は随分と優しい笑みを浮かべていた。本当に自分たちのことを心配してくれていたのだろう。感謝してもしきれない。彼女が何か困ったときには、絶対に手を貸そうと拓海は心の中で誓った。
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