別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 優から指定された店に行ってみれば、優はすでに酒を飲みながら、楽しそうに過ごしていた。どうやら拓海が来るよりもずっと前から飲んでいそうな雰囲気だ。

「お、拓海」
「優、お前いつからいるんだよ」
「うーん、一時間前くらい?」
「お前はいつも楽しそうでいいな。感心するわ」

 嫌味のつもりで言ったのだが、優にそんな意図はまったく伝わらなかった。

「はは、羨ましいだろ? でも、俺のこと褒めても何も出ないぞ」
「はあー、どうして褒められたと思うんだよ……」

 どうやったらそういう解釈になるのか拓海にはわからなかった。もう二十五年くらいの付き合いになるが、優の考えていることは今でもさっぱりわからない。あまりにも理解できなくて頭が痛くなる。しかも、たびたび面倒ごとを起こすから、優の近くにいるのは本当に大変なのだが、それでもその陽気な性格に救われることがあるから、なんだかんだで今も付き合い続けている。

「優は何も悩みなんてなさそうだな」
「いやいや、俺だって悩むことあるって。毎日嫁に怒られて、これが人生の墓場かーって日々思い悩んでるから」

 それを聞いて拓海が思ったのは、優も大変だなという感想ではなく、こいつの奥さんは大変だなという感想だった。きっと日々怒らせるようなことを優がしているに違いない。

「それはどちらかというと奥さんが悩んでるだろ。どうせお前がろくなことしないからだろ?」
「ひでぇ、拓海は俺の味方じゃないのか?」
「味方できる内容だったら味方してやるけど絶対違うだろ。いったい何で怒られてるんだよ」
「それはー、まあいろいろ?」

 すぐに言えない時点で優に非があることは明白だ。

「そうやって濁す時点で自分が悪い自覚あるんだろ?」
「いやー、だってさ、人間そんな完璧にはなれないだろ? ちょっとくらいダメなとこあっても許してほしくねぇ?」

 拓海はその言葉には同意したかった。少しくらいだらけた生活をしても許してほしい、そんな考えが浮かんだのだ。でも、そんな思考に至ると同時に先ほどの瞳とのやり取りが蘇ってくる。折角気分を変えようと思ってここへ来たのに、これでは意味がないと拓海は慌ててその思考を振り払った。
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