別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「なんだよ。じゃあ、今でもラブラブなわけ? お前らもう十年以上一緒にいるじゃん。よく飽きないな」

 さすがにもう昔のような関係ではない。あの頃みたいに瞳をかわいいと思ったり、触れたいと思うことはなくなった。もちろん瞳が大事な人であることに変わりはないが、今は家族という感覚のほうが強い。そばにいることが当たり前の存在なのだ。

「いや、さすがに昔とは違うけど……でも、飽きはしないだろ」
「同じ女といて飽きないとかすげぇな」
「お前、結婚しておいてよくそんなこと言えるな。奥さんが聞いたら泣くぞ」
「嫁には言うなよ」
「はあ、だったらそんなこと口にするな。お前さ、実家で暮らしてた頃に家族といて飽きたなんて思ったことあるか?」
「いや、それはないけど。だって、それが当たり前じゃん」
「そういうことだよ。一緒にいるのが当たり前なんだよ。だから、飽きるとかはない」

 飽きたなんて思ったことは一度もない。時々疲れることはあっても、一緒にいるのが本当に嫌だとまでは思わないし、二人の生活を飽きたなんて思わない。今回の別居も期限付きだからいいのだ。この先も瞳と暮らしていくことが拓海にとってはもう当たり前のことだ。

「あー、それはわかるかも。いるのが当たり前か。確かに。実家いると誰にも気を遣わないくていいから楽だし、何しても許される感じあるよな」
「……お前は誰にも気を遣ってないだろ……それに家族でも許されないことはあるからな?」
「何だよ。折角同意したのに、なんでお前は同意してくれないわけ?」
「全部を否定はしないけど、お前は親しき仲にも礼儀ありって言葉を肝に銘じたほうがいい。ちゃんと奥さんにも礼を尽くせよ?」
「わかってるよ。捨てられたら困るしな」

 今日の拓海の瞳に対する態度は礼を欠いていたなと思う。拓海こそ瞳に捨てられないようにしなければならない。振り返ってみても一緒に暮らしていて大きな恩恵を受けているのは拓海のほうだ。拓海もちゃんと瞳に礼を尽くすべきだとそう思った。
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