別居恋愛　～もう一度恋からはじめよう～
　食材は少し多いかなと思うくらいの量を準備していたが、結局は三人ですべてを食べきった。聖はお腹いっぱいと言わんばかりに、お腹を押さえて椅子にもたれかかっている。とても幸せそうな顔をしているから、たらふく食べて満足できたのだろう。

　皆が食事を終えれば、瞳の仕事はここからだと、すぐに席を立って動きはじめた。部屋に匂いが染みつく前にすべて片づけてしまいたい。テーブルの上のものから順に片づけていく。すると拓海も何も言わずとも一緒に汚れ物をシンクまで運びはじめた。こういうときに率先して動いてくれるのが聖とは大違いだ。

　聖は瞳と拓海が片づけていく中、しばらくはじっと座って動かなかったが、面倒くさそうに立ち上がると自分が使った食器だけはシンクまで運んでくれた。瞳がこっちで暮らしはじめた頃は、それすらしてくれなかったのだが、何度も言いきかせているうちにやってくれるようになったのだ。

　そうしてホットプレート以外を運び終わり、まだ冷めてないホットプレートはいったん邪魔にならない場所に置いておこうと、瞳はそれを運ぶために再びテーブルに歩み寄った。持ちやすいようにもう一歩だけ近づこうと瞳はテーブルのほうへ足を一歩前に踏み入れたが、その瞬間に瞳は声にならない悲鳴を上げた。

「いっ！」

　何かの硬いものを踏んづけて思わずよろけてしまう。目の前にはまだ冷めてないホットプレートがあって、ヒヤッと肝が冷えたが、拓海が抱きとめるようにして支えてくれたから惨事には至らずに済んだ。

「危ない……大丈夫か？」
「……うん」

　瞳の心臓は二つの理由でドッドッと大きな音を立てていた。一つは危うく火傷するところだったという危機に直面したせいだが、もう一つは拓海に抱きとめられている状況のせいだった。純粋に助けてくれたのだとわかっているが、あまりにも久しぶりな接触に勝手に鼓動が速まってしまう。今さらこの程度で何を恥じらっているんだと思うが、瞳の心臓は大きく脈打ったままなかなか元に戻らなかった。
< 50 / 156 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop