別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「どうした? 何かあるんだろ?」
「え?」
「何もないのに泣かないだろ?」

 拓海は、先ほど瞳が泣きそうになっていたのを気にしていたらしい。でも、特別な何かがあるわけじゃなくて、気遣いが嬉しくて思わず涙がこみ上げただけだ。だから、端的に説明するのは難しくて、瞳は考えながらぽつぽつと思っていることを口にしてみた。

「あー、あの、別に何かあるわけじゃないから……ただ、ちょっと疲れたのかな? いろいろと慣れないこと多くて」
「うん」
「その、思ったよりも聖がやんちゃに育ってて、いろいろと大変で……だから、今日拓海がいろいろ手伝ってくれて、優しくしてくれたのが嬉しくて泣いちゃった、かな?」
「そっか。そうだよな。確かに大変だよな」
「うん。聖のことは好きだし、かわいいと思うけど、やっぱりお母さんいない状態で、あの子の面倒みるのは思ったより大変だった。私が守んないといけないし……」
「うん。ずっと離れてたのに突然一人で世話するなんて、大変に決まってる。瞳には仕事もあるしな。ずっと気を張ってたんだろ」
「うん……」
「瞳は頑張ってるよ。えらい。えらいよ」

 拓海はそう言うと瞳を引き寄せて、あやすように瞳の背を撫でてくれた。拓海の声もその手つきもあまりにも優しくて、瞳は張りつめていた糸が切れたように心が緩んで、ぽろぽろと涙がこぼれはじめた。
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