別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 一人の生活が続いて、瞳の存在の大きさをまざまざと感じさせられた拓海は、瞳に感謝の想いを伝えたい気持ちが大きくなっていた。もう長いことそういう言葉を口にしてこなかったから、上手く言える自信なんてなかったけれど、瞳が作ってくれた食事を口にしていれば、意識なんてしなくても、自然と最近感じていたことがそのまま口から漏れ出ていた。

 これで瞳のことが大事だという想いが少しでも伝わってくれればいい。そんなふうに思った拓海だが、瞳からは予想以上の反応が返ってきた。

 瞳は拓海の言葉に顔を赤らめて照れはじめたのだ。聖の手前ごまかそうとしているようではあったが、耳を赤くしてどこか落ち着きなさそうにしている様はどう見ても照れていた。瞳は付き合いはじめの頃のように照れくさそうにしていて、驚くくらいかわいかったのだ。あまりのかわいさに、聖が目の前にいることも忘れて、うっかり瞳に触れそうになったくらいだ。

 自分の言葉が瞳をそうさせているのかと思うと拓海まで心がそわそわとして落ち着かなくなった。そんな感覚は本当に久しぶりだった。一緒にいて安心するという感覚はあっても、心をくすぐられるような感覚になることはもうないと思っていた。

 でも、それは拓海の思い違いだったらしい。そう感じなくなっていたのは、きっと自分が瞳に対して心を尽くしていなかったせいだろう。瞳の反応を見てそれが痛いほどわかった。拓海が心を尽くして言葉を告げれば、瞳はしっかりとその言葉に反応してくれたのだから。

 瞳は恥ずかしそうではあったが、そこにはちゃんと喜びの感情もあると感じられた。拓海の言葉を喜んでくれているのだとわかった。照れる瞳は本当に信じられないくらいかわいくて、拓海の心は深く満たされた。
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