別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「ありがとう、瞳。じゃあ、たくさん話をしよう?」
「話?」
「ああ。ここ最近ほとんど話せてなかったから……瞳といろいろ話したい。別に内容は何でもいい。ただ二人で話せたらそれで」

 本当にただただ話がしたかった。ずっとまともに会話もできていなかったから、瞳が日々感じていることをただ知りたかった。

「うん……私ももっと拓海とおしゃべりしたい」
「じゃあ、土曜の夜はこうやって寝る前に話そうか」
「うん。嬉しい。あれ、でも、これじゃあ私が嬉しいだけで、拓海のために何かすることになってないじゃん」

 拓海との会話が嬉しいだなんて、瞳は随分とかわいいことを言ってくれる。こんなかわいい瞳を見られるだけで、拓海はもう十分すぎるくらいのものを瞳からもらっている。

「はは。俺がしたいって言ったんだから、俺のためになってるだろ?」
「でも……」
「本当に瞳と話せるだけで嬉しいから。それに今は聖のこともあって大変だろ? 俺のことはいいから、聖のことを優先してやれよ」
「うん……ありがとう、拓海」
「いや」
「でも、やっぱり何かしたいから、土曜の夜は拓海が食べたいもの作るね」
「まったく。俺のことはいいって言ってんのに。でも、めちゃくちゃ嬉しい。毎週楽しみにするわ」

 好物を作ってくれるのはもちろん嬉しいが、それよりも瞳のその心遣いが嬉しかった。新婚当初とまではいかないものの、二人の心が間違いなく通い合っているとわかる。少しむず痒いような感じもするが、何とも言えない心地よさもあった。随分昔に味わったその感覚を再び瞳といることで感じられるなんて、なんて幸せなことだろうと拓海は思った。
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