別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 拓海は本当に何もわかっていない聖に一つ一つ実戦で教えていった。聖の慣れない手つきにヒヤッとしたりもしたが、二人で一緒に調理をして、二人としては満足のいく出来のものを作り上げた。

「聖、瞳に持っていってやれ」
「うん!」

 瞳の分は聖に持っていかせ、聖と拓海の分は拓海が食卓へと運んだ。三人で「いただきます」と挨拶したが、拓海も聖も自分たちの分にはすぐには手をつけず、まずは瞳が食べるのを見守っていた。聖は随分と緊張した面持ちで、瞳が食する様を見ている。

「姉ちゃん、どう? うまい?」
「ふふ。うん、美味しいよ。ありがとう、二人とも」
「へへ、どういたしまして!」

 瞳からの褒めの言葉をもらって、聖はとても嬉しそうにしている。やはり聖にもやらせてよかったなと拓海は思った。

「喜んでもらえてよかったな、聖」
「うん」
「瞳。いつもありがとうな。このくらいじゃ全然お礼にはならないかもしれないけど、今日は感謝してるって伝えたかった。大したことはできないかもしれないけど、これからも俺のこと頼れよ? 本当に瞳のこと大事だから、俺も瞳にいろいろとしてやりたい」

 素直に自分の気持ちを伝えるととてもすっきりとした気分になった。こんなに清々しい気持ちになったのは随分と久しぶりだ。

「あれ、姉ちゃん、泣いてる?」

 聖の台詞を聞いて、瞳の顔を覗き込んでみると確かに瞳は目に涙を浮かべていた。

「あはは。ごめん、嬉しくて涙出た。ありがとう、拓海」
「拓兄が泣かした」

 聖はわざとらしくそんなことを言っているが、その表情は嬉しそうなものだったから、瞳が喜んでいるというのはわかっているのだろう。もちろん拓海にも瞳が喜んでいることは十分に伝わってきた。

「嬉し泣きだからいいんだよ」

 拓海は瞳の頭に優しくトントンと触れてから、ようやく自分の料理に手をつけた。瞳も涙を拭うとすぐに食事を再開し、三人はとても和やかな空気でその日の昼食を終えたのだった。
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