別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 聖が十時に家を出て、十五分くらいが経つと拓海がやってきた。聖から話を聞いてすぐにメッセージで聖が出かけることは連絡しておいたが、拓海の様子を見るにそれには気づいていないようだった。

「拓海。ごめん。聖、友達と遊びに行っちゃったの。一応メッセージは送ったんだけど、たぶん運転中だったよね? ごめんね、家出る前に連絡できなくて」

 瞳がそう言うと拓海はポケットから携帯を取り出して、メッセージを確認しはじめた。

「あ、本当だ。携帯鳴ったのは気づいてたんだけど、電話じゃなかったからすぐ見てなかった」
「ごめんね。折角来てくれたのに。五時頃帰るって言ってたから、まだしばらく帰ってこないんだよね」
「そっか。そんな気にするなよ。俺がここに来てるのは聖のためだけじゃないから。瞳に会いたいって言っただろ?」

 その優しいフォローが瞳は嬉しかった。瞳の心が軽くなるように言ってくれたのだろう。

「……うん。ありがとう、拓海。今日はうちでゆっくり過ごして」
「うーん、ゆっくりなー……あ、折角だし、俺らもどっか行く?」
「え?」
「車でどこでも連れてくけど? 俺は何もしないでじっとしてるよりそのほうがいいし」

 また瞳を気遣ってそう言ってくれているかなとは思ったが、確かに車を出してもらえると助かることもある。聖もいないから用事を済ませるのにはちょうどいいし、瞳はありがたく拓海の言葉に甘えることにした。

「えっと、それならホームセンターまで買いだしに付き合ってくれると嬉しいかな」

 瞳がお願いしたいことを告げると拓海は随分と微妙な表情になってしまった。お願いが図々しすぎたのだろうかなんて考えていた瞳だが、それは瞳が拓海の申し出の意味を正しく理解していなかったせいだと、次の拓海の言葉でわかった。
< 82 / 156 >

この作品をシェア

pagetop