別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「どうした? 何か浮かない顔してただろ。何かあったか?」
「……」
「俺にも言えない?」
「……姉ちゃん、俺の受験終わるまでここにいるって」
「そうだな」
「お母さん帰ってきたのに……」

 それを聞いて瞳の表情に合点がいった。きっと瞳が残ると聞いて聖は反発したのだろう。瞳のためを思って。だから、聖に何も言えなかったに違いない。

「瞳は頑張ってる聖のために何かしたいんだよ」
「でも……」
「聖は瞳がここにいるって言ってくれて嬉しくなかったか?」

 そう問いかけると聖は勢いよく首を振って否定してきた。やはり、瞳がいてくれること自体は嬉しいようだ。ただ、瞳にそこまでさせることに申し訳なさがあるのだろう。

「うん。瞳が無理してないか心配?」
「……うん」
「そっか。まあ、瞳は頑張り屋だしな。でも、瞳はここで聖のために何かできることが嬉しいんだよ。聖が素直に喜んでくれたほうが瞳も嬉しいと思うぞ?」
「……拓兄は?」

 まさか自分に向けて問いかけが来るとは思わなくて、拓海は意味のない問い返しをしてしまった。

「え? 俺?」
「拓兄は嫌じゃない?」
「嫌なわけないだろ? 聖は俺にとっても大事な弟なんだから。聖のためになるなら俺も嬉しい」
「姉ちゃんのこと嫌いにならない?」

 聖はどうやら瞳のことだけではなくて、瞳と拓海二人のことも心配していたらしい。
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