月花は愛され咲き誇る
(尚更私が舞う必要はないんじゃ……)

 香夜はそう思ったが、長の命でもあったし養母も止めはしない。
 この状況で舞わずにいるのは無理だった。

「まあ、あなたも結局舞うの?」

 舞台を降りてきた鈴華がやり切った笑みを嘲笑に変えて言ってくる。

「はい……指定の年齢ならば皆舞えとお付きの方から指摘がありまして……」
「あらそう。まあ、私の後ならあなたの舞がみっともなくても誰も見ていないでしょうから……良かったわね」

 と、ご機嫌そうに鈴華は言う。
 その様子から彼女も選ばれるのは自分だと思っている様に見えた。

(全く……跡取り問題はどうするつもりなのかしら)

 その辺りのことを全く考えていなさそうな鈴華に少しため息をつきたくなった。
 だが、誰も見ていないだろうという言葉には少し安心する。
 確かに鈴華の美しい舞の後ではそこまで注視されることもないだろう。
 ご機嫌な鈴華を見送ってから、香夜は舞台へと上がった。

 瞬間、ざわりと異様な空気が宴の中を駆け巡る。
 見ずとも、聞かずとも分かる。

 何故お前が舞うのだ?

 そんな意図が無数の針となって突き刺さってきたのだから。
 舞は注視されないと思ったが、別の意味で注目されてしまった。
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