女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
「翡翠さん、助かりましたわ」

「それは良かった。彼は？」

「先輩の萩尾４段ですわ」

「あのように、しつこく誘われることはよくあるのか」

翡翠が仏頂面で訊ねる。

桜花に変な虫を近づけたくないのが本音だ。

桜花は翡翠の声音で、翡翠が感情を抑えているのを感じ、質問の返事はしないほうが無難だと判断した。

「私は誰のお誘いもお受けしませんわ。翡翠さん以外は」

桜花は口にして、自分の言った言葉にハッとし、頬が火照っていくのを感じた。

翡翠は桜花の薄紅に染まった頬を見て、１つ咳払いした。

翡翠の顔に一瞬、安堵の表情が浮かんだ。

翡翠は口にこそ出さなかったが、桜花の照れた顔も愛おしいと思った。

「良ければ研修会終了後、迎えにくる」

「嬉しいです。けれど、お忙しくありませんの？」

桜花は翡翠が次期社長として、既に社長代行し多岐に渡って業務をこなしていることを知っている。
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