女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
「好きだから、楽しいからですわ」

桜花は毅然として、迷いなく答える。

「何が面白いのか……何時間も正座で座りっぱなし。女だてらに勝負ごとなど、もっと学生生活を楽しんでも」

吉野は「は~あ~」と長く深い溜め息をつき、桜花を呆れ返った顔で見つめている。

「私は将棋をしている時が1番、楽しいですわ」

吉野はさきほどよりも、さらに長い溜め息をついた。

桜花が病室で覚えた将棋だ、どうせ遊び程度で、すぐに飽きるだろうと思っていた。

吉野は桜花が奨励会主催の小中学生全国大会で幾度も優勝し1次試験免除で、奨励会試験に合格したことも知らなかった。大光建設杯清麗戦で闘っていることも、実はなにがしかのタイトル戦で闘っているとだけしか知らない。

そんな吉野だが、桜花が女流棋士になったと聞いた時はさすがに驚いた。

吉野は将棋に興味がない。

疎いだけではなく、そもそも娘のプライベートも録に知らないのだ。

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