女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
病院の医院長として日々、多忙な吉野は、桜花のことをほぼすべて妻に任せている。

女流棋士の話題が出ても、自分の娘のことだとは露ほども思っていないくらいに、気にも止めていなかった。

提携している薬品会社や医師会などで、桜花が女流棋士で闘っていると聞いたのも、つい1年ほど前のことだ。

自分の娘がタイトル戦の準決勝に勝ち上がったことも数日前、出席した医師会で話題に上り知ったのだった。

吉野はたまには娘の対局を観戦してみようかと、ふと思った。

娘の将棋への執着が何なのか、初めて知りたいと思っていた。

桜花は事あるごとに「将棋はいつまで続けるつもりだ」と聞いてくる吉野が、そんな気持ちでいることなど、微塵も知らない。

「私、将棋は何が何でもやめませんわ」

桜花は呆れ顔の吉野にとどめを刺すように叫ぶと、スカートの裾辺りでギュッと拳を震わせた。
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