女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
加藤は勝ち誇った顔で「さあ、指す手があるあかしら」と桜花を嘲笑って、盤面を見下ろし言った。

形勢は桜花に9割がた不利な情勢だ。

桜花は負けたくない、負けられない、何処に指せば加藤に勝てるのか、懸命に探る。

胸の鼓動はバクバク鳴って、呼吸が浅く速くなり、過呼吸状態だ。

「30秒……40秒……50秒……5、4、3」

桜花はタイムリミットが迫るなか、盤上に一筋の光を見出した。

「加藤5段、詰みですわ」

桜花が冷静に、静かに言いながら渾身の1手、9二角成と指したのはまさに、秒読み終了と同時だった。

加藤の王将を桜花の駒が捕らえた瞬間、加藤は「ハッ」とし、盤上を見つめた。

十数秒後。

加藤がガックリと項垂れ、溜め息を漏らした。

桜花は加藤の「負けました」の声を聞きながら、畳の上に崩れおちるように失神した。

勝者が決定したことよりも、桜花が失神したことで場内が騒然となった。
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