女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
「こんにちは、桜花さんのお見舞いに……」

吉野は仏頂面だ。

「翡翠くん。今、桜花は眠っている。院長室に来たまえ」

「はい」

翡翠は吉野に言われるまま、見舞いに買ってきた人気菓子店の包みを持って、吉野の後に続いた。

何か不機嫌になるようなことがあったのだろうかと、心配で仕方なかった。

吉野は院長室の椅子に荒々しく、ガタガタと音を立てて座った。

「かけたまえ」

「桜花さんのお加減はいかがですか」

「元々あまり丈夫ではない娘だ。先日の対局で消耗している」

「かなり厳しい対局でした」

「桜花は何故、あれほど将棋にこだわるのか。理由を聞けば君に釣り合う女性になりたいと言う」

「私にですか」

「何か心当たりはないかね?」

「……思い当たることは」

翡翠が思い当たると言えば、自分が桜花に将棋を教えたことだが、吉野に話していいものかどうかと、黙りこんだ。
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