女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
桜花は車中で進路調査票を入れたファイルを眺めた。

「どうした? 溜め息など珍しい」

「あっ……」

ついついてしまった溜め息を、翡翠に聞かれ恥ずかしかった。

「進路調査票を出し忘れていましたの」

「進路、医大を受験するんだろう」

「それはそうですけれど……やりたいことは決まっているのに、家に縛られているみたいで……でも、医大に行くことが嫌だというわけではありませんの」

「何となく解る。俺も君の年には色々迷った」

「後悔はありませんの?」

「棋士にならなかったことを?」

「ええ。3段リーグAグループ、あと1歩でプロ棋士になれた……」

「俺はその1歩が辛くて、息詰まってしまった。後悔する前に諦めてしまった。だから、桜花。君には好きなことはずっと続けてほしい」

桜花には。翡翠が後悔をしていないと言いながら、何処か寂しそうに見えた。

「将棋は続けていきますわ、ずっと」
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