女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
銀を取り、ケンカを受けて勝ってこそ1流ではないかと。

見里は5分、葛藤し9六香と指す。

桜花は4四歩、後手見里の王は窮地に立たされている。

見里は盤上を見下ろし、あらゆる手を探っていた。

見里の頭の中を様々な手が渦巻く。

5一角、6一玉、2六銀……どれも形勢を変えられない。

銀を指し出し金を封じても……考えつく手を思い描くが見つからない。

売られたケンカなどと意地を張らなければ良かったと思いつつ、秒読みが始まる。

40秒…50秒…。

「……負けました」

見里の目から1筋、涙がこぼれる。

「ありがとうございました」

見里は礼をするなりスクッと立ち上がり、対局室を小走りで出ていった。

「見里清麗?」

記者がすれ違いざま、見里を呼ぶが見里の涙を見て「あっ」と息を飲んだ。

見里不在ど記者たちが桜花を取り囲んだ。

カメラのフラッシュがあちらこちらで光る。
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