女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
桜花と翡翠は10歳の年の差はあるが、幼なじみだ。

翡翠は桜花が生まれて間もなくから知っている。

気丈に振る舞う桜花があまり丈夫ではないことも、じゅうぶん熟知しているつもりだ。

小学生の高学年くらいまで、たびたび体調を崩し病室で過ごしていた桜花を元気づけたくて、親や看護師の目を盗み、桜花と病室で過ごした。

翡翠は3歳から祖父の付き合いで将棋を始めた。

小学3年生で奨励会に入った翡翠は、メキメキと腕を上げ、高校1年で3段に昇格した。

当時、桜花は5歳。

翡翠は3段リーグAグループで闘っていた。

殺伐とした空気と緊張感で、神経をすり減らし奮闘する日々の中、桜花が対局の話を食いるように聞いてきた。

それが桜花に将棋を教えたきっかけだった。

ーー私がどれほど、翡翠さんと過ごす時間を楽しみにしていたか、言葉ではとても伝えきれない

桜花は翡翠の横顔を見つめ、目を細めた。

ーーこの人の側にいたい、この人の応援を感じながら将棋を指し続けたい。この人のためにもっと強くなりたい

桜花の胸に熱いものがこみ上げた。

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