女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
「彼女ならば」  

「婚約の話は他からもある。鷲塚も田嶋も適齢期の娘を候補にと」

銀之丞は見合い写真を数札、翡翠の前に突き出した。

「必要ありません。私は桜花以外は……」

銀之丞は翡翠の言葉を遮るように舌打ちをする。

「ならば賭けをしよう。清麗戦、吉野の娘が3勝しタイトルを取れば婚約を認めよう。負ければ婚約は認めん。見合いをしろ」

「賭けごとは好きではありませんが、承知しました。ただ、この話は吉野氏にも桜花にも、見合い写真の相手にも伝えないでください。桜花には要らぬ情報を耳に入れたくない。のびのびと彼女の将棋をしてほしい」

「良かろう」

銀之丞はしてやったりとほくそんだのに対し、翡翠は「桜花、すまない」と呟いた。

桜花の対局と見合いを天秤にかけたことが、桜花への裏切りだと感じていた。
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