女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
メイドは一旦、「え……と」と、口ごもり目を反らした。

「さあ、言いなさい」


桜花に再度、詰め寄られたメイドは渋々、話し出した。

「実は……ですね。翡翠さまがお見合いをなさるそうなんです。昨日、旦那さまに如月社長から電話がありまして……ドアの外で聞いてしまった話なので」

「翡翠さんが……お見合い? もっと詳しく」

桜花はショックで取り乱しそうなのを何とか持ちこたえ、続きを迫った。

「お嬢さまがタイトル戦に勝てば翡翠さまと婚約。お嬢さまがタイトル戦に負ければ翡翠さまはお見合いをなさる。翡翠さまはそういう賭けを如月社長とされたらしいんです」

「……そう……」

「お嬢さま。すみません……大丈夫ですか?」

桜花はショックで落ち込んだが、気を取り直し「大丈夫だ、私は大丈夫だ」と自分自身に言い聞かせた。

「勝てば良いのでしょう? 勝てば」
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