女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
桜花の金が剥がされるが、ここは辛抱と、桜花は歯をくいしばった。

「まだ、まだ、まだ……私の辞書に『負けました』はありませんわ」

「しぶといわね。さっさと降参しなさい」

見里が桜花の粘りに、ふてぶてしく呟いた。

「9七竜、形勢逆転ですわ!」

桜花は持ち時間を目一杯使い、ここぞとはがり盤をパチンと鳴らした。

小気味良い音が対局室いっぱいに響き渡った。

勝ち誇っていた見里の表情が一気に曇った。

「えっ!?……」

見里は何が起きたのかという、表情をしていた。


見里が持ち時間を使い果たし、秒読みが始まる。


「40秒、50秒、10、9、8、7、6……」


見里は膝においた手を震わせ、唇をキュッと噛んだ。

見里の目から一筋、涙が零れる。

「ありがとうございました」

「………」

見里の声は聞こえなかった。
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